AlgoLaser mini 10Wレーザー彫刻機を買った
寝れない秋の夜、毎年恒例の独身の日セールでAliExpressを彷徨っていた時。 兼ねてから欲しかったおもちゃを見つけてしまい、意識を伴わずうっかりポチってしまった。
セールで物流も混雑してるだろうし、週明けにでも届くのかと思い土日に作業場を用意するつもりでいた。 しかし予想だにしない方向に期待を裏切られ、注文翌日に佐川が持ってきてくれるというとてつもない速さで届いてしまった。
Aliの11.11セールで昨日(11/12)注文したおもちゃがもう届いて早すぎる
— 有馬かな (@mzyy94.com) 2025年11月13日 14:42
ちょっと遊んでみただけでもかなり楽しく、是非おすすめしたくなったため、作業場を作るのは後回しにしてこの記事で紹介したい。
目次
Open 目次
レーザー加工機への憧れ
昔からレーザー加工機にはロマンを感じていた。
3Dプリンタがお手頃な価格手に入るようになり、それを初めて購入し造形した時の感動は今も覚えている。
その流れでレーザー加工機に興味を惹かれ、3Dプリンタのように手頃に買えるようになったら手に入れたいと考えていた。 レーザーという単語の語感が好きだという理由もある。 当時はまだ価格帯が高く、趣味程度に買うには手が出せない代物だったが、どんな製品を購入しようかの調査はしていた。
レーザー性能と製品選び
3Dプリンターのようにレーザー加工機にも種類がたくさんあり、レーザー自体の種類も様々だ。 産業用途にはCO2レーザーやファイバーレーザーが使われており、家庭向けはダイオードレーザーが主流となっている。 ダイオードレーザーもまた様々な特徴で細分化されるが、特に性能に直結する部分がレーザー出力である。
昨今エントリー向けとして広く販売されるレーザー出力の下限は5Wで、本革や木材の表面を焼いて柄を刻印できる。 次点で10Wがあり、ステンレスなどの金属にレーザーで刻印ができるようになり、5mm程度の柔らかい木材の切断が可能になってくる。 この辺りまでをレーザー彫刻機(Laser Engraver)という。
20Wを超えてくると切断が主目的に加わり、レーザー加工機(Laser Engraver & Cutter)と呼び名が変化する。
大は小を兼ねるのがレーザー出力のいいところで、出力や照射時間を抑えて焼き色を調節することができる。 20Wのレーザー加工機で50%の出力を設定することで10W相当の照射が可能というわけだ。 力こそパワー理論で兎に角レーザー出力が強いものを買えばいいのだが、当然数値が上がるごとに製品価格も上がる。 金に糸目をつけないのであれば悩む必要はないが、用途と予算に合わせて製品選びをしなければならない。
他にも加工サイズだったり移動速度(後述)など、レーザー照射装置以外にも製品ごとに特色があるが、出力のみをざっくりと表にまとめると次のようになる。
| 出力 | 彫刻 | 切断 | 価格帯 |
|---|---|---|---|
| 5W | 木材や本革 | 薄い布や紙 | 3万円〜5万円 |
| 10W | 硬い木材や金属 | ジーンズ生地や数㍉の木材 | 5万円〜10万円 |
| 20W | 深さのある彫刻 | 1cm程度までの木材や黒アクリル板 | 10万〜 |
この中で性能と用途のバランスが良い10Wレーザー出力をターゲットに据え、安く買える製品の登場を待っていた。
刻印パラメーター
刻印はレーザーを照射した箇所の熱量で変化し、その大きさによって濃さが変わってくる。 その熱量を制御してきれいな刻印をするために、2つのパラメーターを理解しておく必要がある。 一つは出力で、もう一つが移動速度だ。
出力は単位W (ワット) で表されるレーザーの仕事量で、移動速度はレーザー照射位置が一分間に移動する速度 mm/min を指す。
関係式 W=J/s が示す通り、レーザーが何秒照射されたかで熱量J (ジュール) が変化し、刻印の濃さが決まる。
同じレーザー出力でも移動速度が遅いと一箇所にレーザーが長く照射され、濃い焼き跡が残ることになる。 逆に同じ速度でレーザーが移動している場合は、レーザー出力の違いがそのまま焼き色として表れる。
刻印の濃さを決定する式は単純化すると 刻印の濃さ = レーザー出力 / 移動速度 となる。
レーザー出力が足りない場合、照射時間を伸ばしたり、2回以上繰り返してレーザーを当てたりして補う使い方もある。
照射時間が伸びると焼き色の濃さより焼き目が広がったりする素材もあるため、素材やデザインに合わせて出力と速度のバランスを考える必要がある。
色々な素材にきれいに刻印をしたい場合、出力はもちろんのこと、移動速度も製品選びの大事なパラメーターとなるのだ。
家庭向けレーザー彫刻機
レーザー彫刻・加工機の有名なメーカーとしてxToolやCrealityなどがある。
xToolはレーザー加工機専門のメーカーで、製造業の現場にも導入されるような製品を取り揃えている。 Crealityは3Dプリンタで培った精密なモーター制御を応用し、レーザー彫刻機の分野にも手を広げている。
どちらも長く販売を続けていて品質はお墨付きだが、ラインナップにはプロユースの高出力で高価なものが並んでいる。 ホビー向けの10Wモデルも扱っているが、おもちゃ感覚で買えるほどお手軽価格ではない。
これらは筐体に覆われたエンクロージャータイプで、加工中にレーザー光や煙を外に出さない作りになっている。 筐体のないオープンフレームタイプのものならぐっと価格は下がるが、組み立て式だったり保護メガネや換気設備を整えたりしなければならない。
利便性とのトレードオフとはなるものの、値段重視でメーカー不問の格安オープンフレームの登場を待つことにした。
お手頃10Wレーザー彫刻機
時日は流れ2025年秋、レーザー彫刻機の値段もこなれてきて低価格のものが多く流通する時代になっていた。そんな中、11.11セールで値引きとクーポンが重なり、2万円と小銭で買える製品を見つけてしまった。
AlgoLaserというメーカーの最廉価版オープンフレーム型レーザー彫刻機の組み立てキット。 Wi-Fi経由でスマホアプリと繋げられ、USB接続でPCからの制御ができるベーシックな作りだ。 性能としては10Wクラスのレーザーを搭載し、最大移動速度は12000mm/minで最小移動間隔は0.05mmと、数字だけ見れば5万円前後の製品と引けを取らない。
あまり聞き馴染みのないメーカーだが、同社製品の海外レビューは好印象のものが多い。 芳しくなくとも栄一2枚ならお勉強代としてギリ許せる範囲ではあるので、思い切って購入することにした。
ちなみに公式サイトでも取り扱っていて、公式ブログにクーポン付きの記事が投稿されている。
AlgoLaser DIY KIT MINI Laser Engraver | Algolaser
組み立て
届いた箱にはしっかりと梱包された状態でパーツが収められていた。

10分で組み立てられますと販売ページにはあったが、チュートリアルを見ながら正しい向きを探してフレームを組んだり細い穴にベルトを通したりで45分ほど格闘。 あとはPSEマークのない24V/4AのACアダプタを繋げるだけで完成なのだが、電源を入れる前に別のマークを探すことにした。

技適マーク探し
製品本体にはもちろん、パッケージや説明書にも技適マークは存在しない。 ならばとコントローラーボックスを開けて無線モジュールの確認をした。 製品ページやオンライン説明書の記載から察していたが、ESP32-S3-WROOM-1Uが搭載されていた。

Espressifがパッケージした製品をそのまま使っているようで、シールドに工事設計認証番号201-220894 の刻印が確認できた。 繋がるFPCアンテナもゲインと資料を照らし合わせ判断するに、国内でも適法に利用できる可能性が高いと言えるだろう。

Info
あくまで今回手元に届いた品に限った話であり、あくまで自己判断によるもののため、あくまで自己責任で利用ください。
レーザー加工してみた

色々な素材に刻印を施してみた。
竹製品に焼き印

フライングタイガーで購入した図柄のないピザカッティングボードの柄の部分に焼印を入れた。
最近ピザ用の小型電気オーブンを購入して趣味程度にピザ作りを始めたので、それっぽいロゴを自作して刻印してみた。
オーブンとそれっぽいイタリア語を並べたロゴをサクッと作り、手順に沿ってスマホアプリに読み込ませた。 横向きのロゴだが縦にしないとフレームと干渉してしまうため、ロゴとピザボードを90度回転させて配置。 照射範囲を決めたらパラーメーターの設定に移る。
設定パラメーター
レーザー彫刻は初体験で、どういった値が適正なのかさっぱりだ。 一応AlgoLaserの公式サイトにパラメーターの一覧があるが、ChatGPTに聞いて次の値で設定した。
- 出力: 30% (3W相当)
- 速度: 5000mm/min
- 回数: 1回 (1パス)
結果 ★★★★☆

初めてにしては上出来だが、拡大して見ると刻印が上下に二重に重なっているように見える。 どうやらBi-directionalがうまくいってないようだ。
レーザー彫刻機は左右にレーザーを動かしながら1行分の照射するのだが、行きと帰りの2回両方で照射することをBi-directional(両方向)という。 折り返す時に縦方向に1ライン (この製品では0.05mm) ずらして戻ってくることで、一往復で2ライン分の加工ができて高速な刻印に一役買うのだ。
今回はその復路にズレがあるようで、ブレたような刻印となってしまったようだ。 ベルトのテンションやフレームの組み付けを調整する公式ブログにある改善手順を試すも効果は出ず。 こうなると原因の特定には時間を要するが、回避策としてはBi-directionalをやめる方法がある。 アプリからはBi-directionalをオフに切り替える方法がなかったため、精細なデザインはPCから刻印しなければならないようだ。
黒アルマイトに白刻印

ピーマンとサラミを乗せたピザを作るにあたり、ピーマンに造形の深いキャラクターをあしらったグッズを並べたく作ってみた。 黒アルマイト加工がされたアルミニウムケースの蓋に刻印をしていく。
アルマイトは酸化アルミニウムと染料の皮膜なので、レーザーで染料を焼き飛ばすことでアルミニウム色が露出し、白っぽい刻印が出てくる。焼き飛ばす量をコントロールすることで、グラデーションをつけることもできる。
ケースの寸法を図りレーザー間隔からdpiを合わせてキャンバスを用意、そこにスクショフォルダに眠る画像を切り貼りして図柄を作っていく。 黒い部分がレーザー刻印される部分として認識されるため、最後に色を反転してレーザー加工ソフトに読み込ませた。

AlgoLaser DIY KIT miniは制御ファームウェアのGRBLに準拠しているので、GRBLに対応するレーザー加工ソフトを利用可能だ。 数あるソフトウェアの中でmacOS対応の実用的なLightBurnを試してみた。
接続手順の公式動画を参考にしながらLightBurnをセットアップし、図案を読み込んでいく。 今回は4つのレイヤーで、キャラクター、背景柄、枠線、名前と分けた。 レイヤーに分けることでパラメーターをそれぞれ変えて加工が可能になる。
設定パラメーター
黒アルマイトについてもChatGPTにパラメーターを聞き、試しに蓋の裏で刻印してみたところ、全くと言っていいほどダメな結果だった。 色々なパターンの刻印を試行錯誤し、最終的に次のパラメーターで加工をした。
キャラクター
- 出力: 15% - 30% (グラデーション)
- 速度: 1600 mm/min
- 回数: 1回
背景柄、枠線、名前
- 出力: 33% (単色)
- 速度: 3000 mm/min
- 回数: 1回
結果 ★★★☆☆

俯瞰して見るといい仕上がりだが、細部の彫刻にズレが見られる。 レイヤー間の位置ズレもあるが、背景柄の直線の歪みが散見される。
キャラクターのグラデーションは階調に難がある。 図面では同じ濃さの場所も実物ではまだら模様になっているため、黒アルマイトへの刻印は5つほどに階調を絞る方が良さそうだ。
直線的でない単色の名前の部分は精度よく刻印されているため、図柄次第では高いクオリティも期待できると感じた。
ジーンズ生地をカット

レーザー彫刻機ではあるが、薄い素材はレーザーカットも可能なのが10W出力レーザーの利点だ。 端材のジーンズ生地があったので試しにカットしてみた。
ちょうどPCの画面に映し出されていた複雑な図形であるRustのSVGアイコンをダウンロードし読み込ませた。
設定パラメーター
端材の端材を使って試しながら次のパラメーターでカットした。
- 出力: 100%
- 速度: 400 mm/min
- 回数: 1回
結果 ★★★★★

必然的に切断面と付近に焦げ色がついてしまうが、かなり精巧に生地をカットできた。 始点と終点が交わらずに切断しきれていない部分に糸のほつれがあるが、ハサミやカッターでは実現できないほどきれいな曲線に仕上がっている。 出力を抑えたり速度を上げて焦げを抑止したり、確実な切断ができる図面を用意することで、さらなる改善が期待できそうだ。 型紙代わりに生地のカットをレーザーで行うと手芸の幅が広がって楽しいだろう。
まとめ
どの素材も焦がして刻印をつけるため、煙が立ち込めて匂いが充満する。ある程度は予想していたが、これが想像以上のものだった。 特に黒アルマイトへの刻印は揮発性有機化合物を含む煙が出ていたようで、わずかに吸入しただけで喉に酸のような刺激と痛みを感じ、妥協してオープンフレームタイプを選んで痛い目にあった。
レーザー光源自体も危険なものなので気をつけて取り扱わないといけないが、煙や発火など周辺にも神経を尖らせないといけない。 長いと数時間にも及ぶ彫刻作業なので精神はかなりすり減るが、その苦労を超える感動を手に入れることができた。
一家に一台レーザー加工機。おすすめです。

